6月  並木
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Row of poplars 2
ベルギー
    ポプラ並木


  ある日、ある時、

  ここで羊飼いのおじさんに出会った。

  おじさんは、長い杖で地面をたたいて言った。

  「この向こうから来たんだね」

   忘れられないおじさんの笑顔。

次の年がひつじ年だったので、その時の記念写真を年賀状にしました。
(う〜ん、さすがに若い私たち!13年前ですからね)
おじさんの持ってる長い杖、ひと休みするときには、こうやって杖にもたれて休みます。
小一時間位、おしゃべりしてたでしょうか・・・・といってもお互いのコトバは通じないのです。
おじさんは何語だったのでしょう?身振り、手振り、カタコトのドイツ語・フランス語・英語・日本語も交えて楽しいひとときでした。
牧羊犬が2頭。1頭は運河に飛び込んでひと泳ぎ、そしてさっさとお昼寝しちゃいました。(写真右端)
もう1頭は人間好きの甘えんぼう、ぴったりくっついて離れません。
羊たちは三々五々、草をはんだり、休んだり。
「ンメエ〜、ウンメ〜」並木道に羊たちの鳴き声がのんびり通り、運河を渡る風がポプラの葉をそよがせてゆきます。
羊の群を先へ進めるおじさんのゆっくりした歩調、2頭の牧羊犬はここぞとばかり大活躍です。
運河の土手下で迷ってる子を誘導したり、道いっぱいの広がり過ぎを注意したり、遅い子をせっついたり、その機敏な動きはたいしたもんです。
羊たちの声は遠のき、群れのカタチがはるかに霞んでしまっても、運河の並木のこの道は、まだまだ、ずうーっと続いてます。
並木道の先の、先の、先あたりから風に乗ってかすかに鈴の音が伝わってきました。
先頭羊は、首に大きな鈴つけてたっけ。



このお土産話の舞台は、ベルギーのブリュッセル近郊、
レオポルド運河沿いのポプラ並木です。
翌年もまた訪ねました。
この年賀状カード持って、おじさんの住んでるという村あたりをウロウロしてみましたが、再会はできませんでした。
後年訪ねた時も、そういう出会いはありません・・・。

一期一会、旅の思い出。
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Row of Poplars 1
並木道を歩く。
並木道で憩う。
並木道に遊ぶ。

家族、恋人、老夫婦、釣り人、ジョギングの人。
羊飼いに牧羊犬、羊たちにはおいしい草。
運河に沿って、昔々に植えられた並木。
今、大きく育って風除けと治水のお役目。
並んで、並んで、他を守り、たくさんの恵みをあたえてくれる。
そして
あたらしい道には、幼木が並んで、時がたつのを待っている。
木は植えて待つものだと、鳥たちが歌う。
高々と葉を繁らせた並木の向こうに、
古い時代と変わらない風景が広がっている。

都会の並木

田園の広がる郊外や田舎の並木は、農作物や家畜、町や村の暮らしに役立ってて、
「ドーモ、お役目、ゴクローサン!」という感じです。
都会ではどうでしょうか?
はじめての海外取材でヨーロッパを巡った時、大樹の並木の下に置かれたベンチに感動しました。
大きな都会には、大きな河が動脈のように流れ、その歴史を物語るように立派な並木が河の両側に影を落としています。
そして、置かれたベンチも歴史っぽく、そこで一日中座っているご老人の姿が印象的でした。
侘びしげな方ばかりではありません。鳥を手に止まらせてパン屑をあげたり、おしゃべりに興じたり、読書、手芸、居眠り、色々です。
ベンチに座るのは、もちろんご老人ばかりではありません。
あちらでは恋人たちが肩寄せ合ってたり、抱き合ってたり。
こちらでは赤ん坊をあやしてたり、ランチを楽しんでたり。
見飽きない光景でした。
私たちもベンチに座ってひと休み。
旅人なのに、なんだかその街の住人になったような気分です。


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ザルツブルグの河辺
都会の並木は、嬉しい。

季節を告げ、涼風を運ぶ。

都会の並木は、賢い。

子守をし、独り言を聞く。

都会の並木は、寛大。

老若男女、国籍、宗教、貧富の差・・・・

わけへだてなく、
生活の喜怒哀楽を受けとめる。

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河畔の散歩

 印象的な並木がありました。
 スペインの田舎、小麦畑のまんなかでした。
 ギラギラの太陽の下、ゴッホが立っているようでした。
 糸杉の並木です。
 私の作品は、ゴッホとは似ても似つきませんが、
 その時の糸杉の立ち方、並び方がまるでゴッホのようだったのです。
 熱く、激しく、一途という感じ。
 燃えるような赤く平らな大地の向こう、糸杉並木の終わりには墓地が横たわっていたのでした。
 空はどこまでも眩しく、碧く広がっていました。

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CYPRESS・糸杉
天を、ゆび指している。

空を、突き刺している。

糸杉は、天空に憧れている。