11月 ルピナス 


霜月・11月 里では柿の実が色づき、雑木林でも小さな紅色の実が目に付きます。
ついこのあいだまで、ひっそりと咲いてた野菊は霜にやられたのでしょうか、姿を消しました。庭の小菊の出番です。
1月から旅で出会った木や花のおみやげ話をつづってきましたが、もう11月になってしまいました。
今回は、晩秋を抜けて南半球へ行ってみたいと思います。
南半球は、季節が逆。ってことは、ちょうど今ごろ春本番!です。

オーストラリアやニュージーランドでは「北向き」の日当たりがいい家という、うたい文句だとか。
方向音痴の私ですが、う〜ん、ナルホド。
ニュージーランドは南半球で日本と同じような位置にあり、大きさも形も似たり寄ったりで、親近感を覚えます。
ただし、南島の方が寒いのです。う〜ん、ナルホド!
はじめてニュージーランドへ渡った時は、ヒツジの多さに驚きました。人口も少ないのですが、ヒトの何倍ものヒツジたちです。
町を離れると丘々が続き、点々とのんびりとヒツジたちが草を喰んでいます。
牛や馬など他の家畜の牧場もあるのですが、ヒツジがだんぜん多いのです。
のんびりと、時に人なつっこく優しく、大好きになったニュージーランドの人たちとヒツジの組み合わせは、う〜ん、なるほど、ピッタリ!です。

暖かい北島から、まだ肌寒い南島へ。石ころだらけの斜面にルピナスが咲き誇っていました。
荒野ケ原に色とりどり、一面のルピナス!今は野生で咲いているのですが、元々は、栽培種を植えたものだとか。
移民した人が、祖国を想いながら増やしていったのでしょうか?
それとも栽培種のルピナスたちが、この土地を大好きになってどんどん広がっていったのでしょうか?
美しくもたくましいルピナスたちが荒野を覆っていました。

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Lupin−New Zealand
ルピナス
 

ヒツジが一匹、ヒツジが二匹、ヒツジが三匹・・・・

ヒツジが千匹、ヒツジがもっと――――

ヒツジの数ほどのルピナスたち

ヒツジは ほとんど白だけど、

ルピナスたちは いろ、色々。

葉っぱの団扇ひろげて、極彩色のお祭りです。



もうひとつ、北半球ですがルピナスの思い出深いおみやげ話があります。
アメリカ合衆国を3ヶ月かけて縦横断したときのことです。


ルピナスヶ原のおみやげ話

U.S.A.縦横断の旅は、時に退屈です。
ある日、ある時、
単調なメインルートを気晴らしに外れてみました。
オフロードの林道を抜けると、突然パーンと明るくなりました。
そこは、ルピナスの原野!
地平線の向こうまで野生のルピナス!
夫は夢中でシャッターを切り、私は、ただ、もう、ウットリ・・・。

だ〜れもいないルピナスヶ原の一本道に、4WDの小型トラックがやって来ました。
荷台には犬が乗っています。
手を振ると、犬は飛び降り、トラックは・・・あ、ら、ら、砂煙をまきあげ丘の向こうへ行ってしまいました。
その犬の楽しいこと!ひとなつっこいこと!
久しぶりに犬とたわむれ遊んでもらって、いっしょに昼寝もして、いつの間にか夕方になってしまいました。
この犬のご主人サマは、一体いずこへ?
この犬は、自力で家へ帰れるのだろうか?
私たちは、これからこの犬といっしょにキャンピングカー生活を送ることに・・・・?
邪気のない犬の瞳を覗き込むと、嬉しそうにしっぽを振るばかり。
「そうだ、そうしよう」って?
夕暮れのルピナスヶ原で、だんだん心配になってきました。

―――と、斜光の丘に一点の砂煙が!
近づいてきた小型トラック、チェックのシャツはまぎれもない犬のご主人サマです。

犬は車の荷台に飛び乗り、私たちにしっぽでアイサツ。
ご主人サマも手を上げて「サンキュー」と、ひとことアイサツ。
車は、再び砂煙をあげて去って行ったのでした。

お昼過ぎから夕方まで、通った車はこれ一台でした。
人と犬が、人と人が信じ切っている小径。
このオフロードは、温かな血が通っている道でした。

浮かんでいた雲のように、私たちの心もほっかりとした、ルピナスヶ原の一日でした。

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Lupin road    U.S.A. コロラド
一本道



ルピナスの野生児がいっせいに背伸びをすると


野原の一本道は、天まで続いてる気分になる。


天国って、こんな所かもしれない。




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