12月 菩提樹と「きよしこの夜」 |
街々はクリスマスイルミネーションで飾りたてられ、クリスマスセール、歳末セール一色に染まりました。 台風や地震等の天災、血生臭い人災が繰り返される中にも、時は回り、私たちの生活は営々と続いています。 一年の終わりの月にフト立ち止まって考えたくなります。 私たちは「どこから来て、どこへ行くのか?」と。 そんな時に思い出す風景があります。 |
Linden 1 |
菩提樹 ある日、ある時、 いっぽんの木が私たちを手招きした 丘の向こうに伸びる小径も私たちを誘っていた 木のシルエットが浮かぶ夕暮れ色に染まった空 語りかけてくれたのは、樹齢を重ねた菩提樹だった 丘の向こうには、ひっそりとちいさな礼拝堂が建っていた 名曲「きよしこの夜」の生まれたところ、古いギターが生みの親 案内してくれて、ありがとう、菩提樹 誘ってくれて、ありがとう、小径 |
オーストリーのチロル地方をゆっくりとキャンピングカーで巡っていた頃のことです。 日も傾きかけ、そろそろ今夜のねぐらを捜す時間です。 キョロキョロしていた私たちの視野の端に、印象的ないっぽんの木がとびこみました。 はるか遠くに延びる畦道が、麦畑と牧草地を通ってその木の根方に辿り着いているようでした。 細い畦道をそろり、そろりと進みました。 刻一刻、表情を変える夕暮れの空と、少しずつ正体をあらわにしてくれる木に魅せられながら―。 近づいて見るとその木は大きな、大きな菩提樹でした。 根元には牧柵があり、牛たちが興味津々の眼差しで私たちを眺めていました。 夕暮れ、夕焼け、日没の時を大きな菩提樹と共有し、日暮れてからようやく丘の向こう側へ降り立ったのでしたが、そこには簡素な小さな礼拝堂がぽつんと建っていました。 小さな村にお似合いの礼拝堂です。 眺めていると通りかかった村の衆に「中へ入ってごらん」と勧められました。 「そう、そう、今日の素晴らしい出会いをカミサマに感謝しなくっちゃ、ね!」 素朴な祈りを捧げようと扉を開けた私たちに、またまた思いがけない出会いが待っていたのです。 礼拝堂の中には、なんと、楽譜とギターが飾られていました。肖像画もあったかしら? 楽譜は「きよしこの夜」、ここで作られ、このギターではじめて奏でられたとか!! 知る人ぞ知る礼拝堂―。 おのれの無知を恥じつつ、今回、少し調べてみました。 |
Linden 2 |
時は1818年クリスマス前夜、 所はザルツブルグ郊外の村、オーバンドルフ。 若い牧師、ヨーゼフ・モールは困っていました。 大事なときに教会のオルガンが故障、、、、村を囲むように流れるザルツアッハ川の洪水が原因とも、ネズミが空気袋をかじったともいわれているようですが、、、、 「そうだ、ギターがある!」ひらめいて作詞したモールは学校の音楽教師、フランツ・グルーバーに作曲を依頼。 一夜にして出来上がったギターによる「きよしこの夜」は 翌クリスマス当日、モールのテノールと、グルーバーのバス二重唱ではじめてこの地に流れたのでした。 |
Linden 3 |
あの大きな菩提樹は、今もあの丘で静かに樹齢を重ねていることでしょう。 幼木だった頃、はじめての「きよしこの夜」を聴いていたかもしれません。 今ごろは、あの小径も丘も雪が降り積もっているでしょうか? それとも、又々、暖冬でしょうか?
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